今月の1点 Monthly Pickup 4月
 
 

        
                  「ただいま」 


石井 礼子(いしい・れいこ 1974〜)

2002(平成14)年 墨・麻紙 77.3×72.6cm 《韮崎大村美術館所蔵》


石井礼子《ただいま》2002年
 

 『私の周囲(まわり)』をテーマに「ごくあたりまえの日常生活を執拗に描いてゆくことで『自分自身の存在』を明らかにしたい」(☆)という石井礼子さん。
 制作に用いるのは、「その香りが心地よい」(☆)という墨と、筆代わりの割り箸。尖らせたり、平たくしたり、箒のように先を分けたりと描写に応じてすべてお手製。また、細部の描写には爪楊枝も登場します。
 この、割り箸で描く方法は、新制作協会に所属する画家・田沢茂さん(1925〜)が辻堂で開いていた児童教室でお絵描きをはじめた9歳からはじめたもの。

 道具が独特ならば、その視点も独特です。
 その視点は、猫目線。

  私の絵には猫がたくさん描かれていますが(中略)実は、猫は私自身なん
  です。猫って、箪笥の上に登って高いところから下を観たり、物の隙間に
  入ってその隙間から覗いたりしますよね・・・。私はその猫の眼でみえる
  世界を描いているんです。(☆)

 複数の猫の、複数の眼からみえる「日常」を、ひとつの画面に細かく、執拗に描きこむ。つまり、ひとつの画面には、眼の数とおなじ数の視点があり、それらをつなげると建物や景色は現実にはない歪みをともないます。だから描かれているものたちはリアルでありながら、わたしたちがふだん眺めているものたちとはまったく異質な姿・表情でそこに在るのです。

 4月28日(日)からはじまる企画展「韮崎大村美術館所蔵 響きあう女性美術家の世界展」では、女子美術大学卒業生をはじめ、教員ら女性作家の作品をおよそ100点展示していますが、この作品の作者・石井さんも1997(平成9)年に同校を卒業。その卒業制作には卒業制作賞が与えられています。

(☆) 「OGインタビュー 作家 石井礼子さん」
『女子美』No.153(2006年/学校法人 女子美術大学発行)所収

(美術館 N.Y )

<略歴 >
1974(昭和49)年、東京生まれ。本籍地である藤沢で育つ。1983(昭和58)年から田沢茂氏主宰の児童画教室に通いはじめる。1985(昭和60)年、毎日新聞社とパン食普及協会主催の絵画コンクールで秀作賞を受賞、ハワイ旅行招待。以降、交通安全絵画展にて神奈川市長賞(1986年)、藤沢市花と緑の町づくりポスターコンクールにて金賞(1987年)、朝日新聞社主催の住まいの絵コンクールでは建設大臣賞(1988年)をそれぞれ受賞。1991(平成3)年には全日本年賀状版画コンクールで特選となる。1993(平成5)年、女子美術大学洋画専攻に入学、途中版画コースから油絵コースに変更し、97(同9)年卒業、同年、女子美術大学大学院美術研究科洋画専攻にすすみ、99(同11)年に修了。この間、1994(平成6)年、第44回藤沢市展にて市議会議長賞を受賞、同展では97(同9)年の第47回展で協会賞を受賞し、翌98(同10)年に藤沢市美術家協会会員となっている。また、1994(平成6)年より多くのグループ展に参加する一方、2001(平成11)年より個展も開催。現在所属する新制作協会には1996(平成8)年の第60回展で初入選。以降、毎年入選を重ね、2000(同12)年から3年連続して新作家賞を受賞し、2003(同15)年に新制作協会会員となる。この新制作協会会員推挙の年、4名の女性画家を紹介した茅ヶ崎市美術館企画展「空想散歩―夢は日常に近く遠く―」に出品したほか、女子美制作・研究奨励賞を受賞している。また、同年の新制作展出品作品は翌年開催の第23回損保ジャパン美術財団選抜奨励展に選抜出品。2005(平成17)年、平塚市美術館にて「石井礼子展―わたしのまわり―」が開催される。2007(平成19)年、40歳以下の若手作家を対象としたVOCA展2007に選抜出品。2008(平成20)年と2009(同21)年、両洋の眼展に出品。2011(平成23)年には初の絵本作品『ちいさい おきゃくさん』(福音館書店)が「こどものとも年少版」の一冊として刊行される。

■企画展「韮崎大村美術館所蔵 響きあう女性美術家の世界展」
会期:2012年4月28日(土)〜6月10日(日)