今月の1点 Monthly Pickup 10月
 
 

        
                「 Sagittarius 」


菅野 陽 (すがの よう) ( 1919‐1995 )作

1963(昭和38)年、銅版・紙、47.9センチ×41.9センチ


Sagittarius
 

 サジタリウス(Sagittarius)は、黄道十二星座の一つである射手座のことです。ギリシャ神話に登場する半人半馬のケンタウロスが弓を番えた姿であるとする説が、おそらくは最も良く知られています。ケンタウロスは好色で粗野な者の多い種族ですが、なかには知恵と分別を備えた者もおり、とりわけ医術の神アスクレピオスや英雄アキレウスに教育を施したとされるケイローンは賢者として名高く、射手座はその彼が天に上げられた姿であるとも言われています。
 射手座は、日本では夏から秋にかけて、南の空の低いところに見られます。その足もとにあたる場所には南の冠座があり、これは射手座に近いことから「射手の冠」「ケンタウロスの冠」などとも呼ばれます。画中の冠はまさに星のならびで表わされており、神話世界の内包する宇宙的な要素を遊び心とともに添えています。
 銅版画の作家として、また研究者として知られる菅野陽ですが、学生時代には主に日本画を、卒業後は主に油彩画の制作を行っていました。造形の追及に伴い、具象から抽象へと表現の形を変え、色彩もモノクロに近い状態になりつつあった、そんな時期に出合ったのが銅版画の世界でした。銅版画には日本画や油彩画とはまた異なる種類の制約がありますが、それ故に得られる未知なる可能性に菅野は心惹かれたのかもしれません。
 菅野がギリシャ神話に画題を求めた作品は他にもあります。神話という、雄弁かつ神秘に満ちた題材に、幾重にも重ねられた計算と偶然とから生まれる銅版画表現の性質と、何か響き合うものを感じたのでしょうか。
この作品は、現在開催中の企画展「生誕90年 銅版画家・菅野陽 ―創生の海―」(11/8まで)にて展示されています。

(美術館 J.K )

<略歴>
1919年台湾生まれ、東京育ち。慶応義塾大学を中退し、39年に東京美術学校(現・東京藝術大学)日本画科に入学。油画科の一年上級に駒井哲郎がいた。43年、応召による繰り上げ卒業。54年、関野準一郎主宰の銅版画研究所で銅版画の手ほどきを受け、以後銅版画の制作にのめり込む。また、創作活動のみならず銅版画研究にも力を尽くし、著書に『銅版画の技法』(62年)『日本銅版画の研究 近世』(74年)等がある。95年、茅ヶ崎の自宅で逝去。