今月の1点 Monthly Pickup 3月
 
 

早 春
石井 弥一郎 ( いしい やいちろう ) ( 1898−1972 )作

制作年不詳 , 油彩・キャンバス , 60.5 cm× 72.7 cm



 キャンバスに踊るとりどりの色彩、一筆一筆燃え立つようなそれらが生み出す躍動感に思わず引き込まれそうになる。海と思しき青を彼方に望みつつ、画面の殆どを覆って展開する赤・黄・緑のうねりの内に目を凝らせば、立木の天に伸びる枝や、常緑の葉の間に覗く黄色い花(或いは柑橘類の実か)などの姿が浮かび上がって見えて来る。
 「早春」はまだ冬の名残濃い季節、実際にはこのように艶やかなものではなかったろうが、しかし大気の温む気配を敏感に察知し、萌え出でようとする生命の歓喜そのものをこの風景に託して描いているとすれば得心がいく。
 石井弥一郎は山形県の最北、鳥海山を仰ぐ吹浦村に生まれ育った。北国で春の兆しは一層愛おしいものだったろう。
 情熱的でありながら、何処か穏やかな印象を画面から受けるのは、自然界の脈動を感じ取る作者の心の繊細さ、何よりそれらに向ける視線の暖かさによるのかもしれない。
(J・K)


<石井 弥一郎(いしい やいちろう)略歴 >
1898年山形県飽海郡吹浦村(現・遊佐町)に生まれる。1916年上京、川端画学校洋画部で藤島武二に、太平洋画会研究所で中村不折、吉田博、満谷国四郎に、のち前田寛治開設の前田写実研究所に、また中川一政に学ぶ。1936年フランス、イタリアに遊学、パリにて田中保に師事、サロン・ドートンヌに推薦を受ける。一九三〇年協会展、槐樹社展、新興美術協会展、太平洋画会展、春陽会展等に出品。1950年太平洋画会評議員、1953年山形県在京美術家羽陽美術クラブ委員長、東京商工会議所美術会幹事等に就任、また石門会を結成、主宰。その他個展等多数開催。1972年横浜にて逝去、享年74。