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今月の1点 Monthly Pickup 6月

《 浮舞 》 森治郎 ( もり・じろう 1929~  )

1980(昭和55)年 水彩、アクリル・紙 縦130.0×横162.0(cm) 《茅ヶ崎市美術館蔵》

 

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森治郎は生まれ育った茅ヶ崎の風景に親しみ、透明水彩絵の具の重ね塗りによって湿り気を感じさせる海岸風景を描き、時に欧米の風景を独自の詩情をはらんだ筆致で描いてきた。森が師事した画家・三橋兄弟治がそうであったように構築的な構図を得意としながら、自然の中で生きる人間への共感の眼差しを作品に込めた。その一方で、透明水彩絵の具の他に、より発色が際立つアクリル絵の具も併用した、日本の古典絵画のモチーフをちりばめた一種の抽象絵画も創作してきた。発端は1965年頃に遡るという。あらゆる画家や表現者が抽象的表現の探求に夢中になった、1960年代の日本美術の潮流と無縁ではないだろう。しかし、森の場合、豊潤な歴史や物語を連想させる古代や中世の絵画に使用された紋様や貼り付けた金箔のイメージを流用することで、表面的な造形の処理に終始しない、より深く力強い絵画空間を獲得することに成功した。
今回紹介する《浮舞》もそうした作品のひとつ。青い絵の具のニュアンスに富んだ変化が美しく、それだけでも鑑賞対象となりうるが、さらに構図を大小のモチーフに分けて画面に緊張感と運動性を与えると共に、優美な曲線を取り入れることで安定した画面を作り上げている。子細に観察すると、上述の箔模様の他に伝統的な日本絵画でしばしば描かれる流水紋が取り入れられていることに気づく。そうして眺めると、一連の動きから岩間を流れる渓流のような情景が見えてくる。いや、やはり茅ヶ崎の海岸であろうか。寄せては返す波の動きに芸術の永遠性を託しているように思える。第39回水彩連盟展に出品し小堀進賞を受賞した。

 この作家の作品は共催展「第34回 茅ヶ崎美術家協会展」 [会期:2016年6月14日(火)~2016年7月9日(土)]に展示されています。

(美術館 T.T)

<略歴 >

現在の茅ヶ崎市南湖に生まれる。茅ヶ崎小学校では浮田克躬(洋画家・故人)、鈴木至夫(日本画家・日本美術院特待)と同級。三橋兄弟治に師事。1954年、創元会展に初入選。翌年より水彩連盟展に出品し、1961年に会員推挙。同展出品作により小堀進賞(1980年)、文部大臣奨励賞(1988年)を受賞。1984年、茅ヶ崎美術家協会創立第1回展に出品し、1993年、会員賞を受賞。現在、水彩連盟顧問、茅ヶ崎美術家協会相談役。
2006年「具象と抽象の間-森治郎水彩画展-」(茅ヶ崎市美術館)

 

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