イベントレポート
2016年2月6日
ミュージアムキットをつかって美術館を知ろう!

先々週の土曜日。小和田公民館で毎年開催されている「おもしろいっぱい遊び空間」というイベントに美術館も参加し、文教大学井上・藤田研究室の学生の皆さんと開発したミュージアムキットを使ったプログラム「ミュージアムキットをつかって美術館を知ろう!」を実施してきました。タイトルの通り、公民館に遊びに来てくれる小学生の皆さんにもっと美術館を身近に感じて、楽しんで、来てもらうためのプログラムです。

ミュージアムキットとは、いくつかの美術館で活用がされていますが、鑑賞者が楽しみながら、時に遊びながら、より深い作品鑑賞へとつながるきっかけをつくる鑑賞補助ツールです。今回、当館の収蔵作品をもとに文教大学の学生の皆さんが開発したミュージアムキットは3つ。

1つ目は、鈴木至夫(すずきのりお)さんの2つの作品を両面に使ったパズル。作品はどちらも深い青色と小さな灯りが見える北海道の風景が描かれています。表と裏が似ている色なので、パズルを完成させるためには、色の違いや山の形や描かれているものをよくよく見ることが必要です。これは作品を隅々まで見る練習をするために作られたキットです。子どもたちからは「難しくて頭を使ったけど楽しかった」という感想があり、1回だけでなく色々な形に切り取られたパズルに挑戦する子が多くいました。そして、鈴木さんの作品に興味を持ってくれた子には、日本画に使われる膠(にかわ)や顔料などの材料も準備しておき、美術館では作品に触ることはできないけれど、触れたときの感触を楽しんでもらいました。

2つ目は、森光子(もりみつこ)さんの作品です。森さんの○と△と□を使った作品をもとに、形に注目したキットを作りました。○と△と□にカットした色付きのケント紙を使って、片方は森さんの作品を真似てみて、どうしてこういう形の組み合わせにしてみたのだろうと思いを巡らせるもの。もう片方は、形を自由に並べ変えての自分のオリジナルな形づくりができるもの。たった3つの形が、形や色の組み合わせ方によって、様々なものに見えてくる不思議さを感じてもらいました。

3つ目は、馬渕聖(まぶちとおる)さんの版画作品です。版を重ねてつくるという版画の技法について知ってもらうために作ったツールは、3枚の半透明フィルムに前景、中景、背景という順番で絵柄を描いて重ねていくというものです。草と鳥と鳥かごの3つの絵を重ねて鳥かごに入った鳥の絵、花火の光と煙と夜景を重ねて花火が上がる絵、緑の野原にお花と蝶々を描いてお花畑の景色など、みんな好きな絵柄を重ねて楽しんでいました。

ミュージアムキット開発は、夏の終わり頃から半年間かけて美術館とともに文教大学の藤田百合先生と学生さんたちが準備してきたものです。まずは、様々な施設で活用されているミュージアムキットのリサーチから始まり、実際に活用されている国立西洋美術館の寺島洋子さん、東京国立博物館の藤田千織さんにもお話を伺いにいきました。ミュージアムキットというのは、一度で完成ということはないので、何度か叩き台(試作品)を作ってトライアルを重なることが必要だということや、作品鑑賞の補助ツールなので、最終的には作品を見ることにつなげることが重要であることを学びました。

ミュージアムキットが完成するまでに学生の皆さんは試行錯誤を繰り返しました。1月のはじめには近隣の梅田中学校の美術部の生徒さんたちに美術館に来てもらって、ミュージアムキットを使ってみた感想をもらうトライアルを実施しました。中学生のみなさんが使ってみて、紙はもっと厚い方が扱いやすいかも、小学生対象ならサンプルの絵柄がもっと簡単なものがあるといいかもなど、貴重な感想をくれました。それらの意見をもとに、更に修正や改良を重ねて完成したのが今回使ったミュージアムキットです。試行錯誤の甲斐あって、小和田公民館の会場では待ち列が出るほどの盛況ぶりでした。

さて、今回ミュージアムキットのもととなった作品は、2月7日(日)からスタートする春季収蔵作品展で展示します。小和田公民館に遊びに来てくれたみんなが、美術館に来て実際の作品に出会ってくれるといいなと思います。


[学芸員:H.F]