報告者:藤川悠(茅ヶ崎市美術館 学芸員)
茅ヶ崎市美術館「美術館までつづく道」第1回の当日の朝。
フィールドワークに出発する前に、まずは本プロジェクトの参加者とマルパ関係者(*1)に向けてプロジェクトの
概要説明と株式会社インクルーシブデザイン・ソリューションズ取締役であられる鎌倉丘星さん(感覚特性:視覚・車椅子)による講演会「インクルーシブデザイン×デザイン思考を美術に活用する方法」が開催されました。
インクルーシブデザインの手法について
講演会では、インクルーシブデザインの手法と、実際にインクルーシブデザインが活用された事例の紹介がされました。これまでのデザイン手法と大きく異なる点は2つ。
1つ目は、デザインするときの流れ。
企業が商品を開発するときの流れは
①まず何を作るかを決める
②試作品を制作する
③試作品をユーザーに試してもらい様子を観察
④問題点を改善し、商品として完成させていく
というこれまでの流れに対し、インクルーシブデザインの流れは
①ユーザーを観察する
②問題点や気付きを発見する
③何を作ろうかユーザーと一緒に考える
④何を作るか決める
という流れで進めるという話でした。
何を作るか決めてから入るのではなく、企画設計の段階からユーザーが参加し一緒に活動(観察など)するところから何をつくろうと考える。そもそもの発想の始点が異なっていることが分かりました。
2つ目は、対象者。
企業は商品の対象を、人口の割合が高い健常者をターゲットにして考えられていたのに対し、インクルーシブデザインでは障害者や高齢者や子どもなど、割合的には少ないかもしれない人たちをターゲットに考える。
そのことで、結果、健常者であってもそうでない人であっても使いやすい商品が生まれる可能性があるということが事例とともに紹介されました。
事例紹介①:洗髪料ボトルにつけられた凹凸
シャンプーとリンスの区別がつくようにと視覚障害者向けに取り付けられた凹凸が、
髪を洗う際に多くの人は目をつぶるので、結果みんなが使い易いものとなった。
事例紹介②:小型インパクトドライバー
これまで大工など専門の人が使っていたインパクトドライバーを家庭でも使えないかとの発想から、
高齢者に使用してもらったところ、既存のものはどれも重く扱いにくいことが判明。
そこで、片手で持って使える小型ドライバーを発明したところ、大工さんも高所作業の際に扱い易く、
落下した際にも被害が少ないということで使い始められているという。
他にもZIPPOライターやストロー、オランダの病院の事例などが紹介されました。
そして、講演会では、インクルーシブデザイン手法を使う上で大切な「5つの重点ポイント」と「デザイン思考のアプローチ」を学びましたので、これは次回のブログでご紹介します。
講演会に参加された皆さんからは「先入観から入らないように心掛けたい」
「福祉とは違うアプローチで何かできることがあるんじゃないかと思った」
「新たな見方をもらった気がする」などの感想がありました。
午後は、いよいよ茅ヶ崎の道のフィールドワークへと出発することとなります。(次号へつづく)
講演会「インクルーシブデザインを美術に活用する方法」
講師:鎌倉丘星(株式会社インクルーシブデザイン・ソリューションズ取締役)
実施日:2018.2.25 10:30-12:30
会場:茅ヶ崎市美術館 アトリエ
参加者:計26名(フィールドワーク参加者、横須賀美術館学芸員、神奈川県立近代美術館学芸員、東海大学教員、神奈川県庁職員、茅ヶ崎市役所美術館所管課担当職員、(公財)かながわ国際交流財団職員、茅ヶ崎市美術館職員)
*1 マルパ(MULPA:Museum UnLearning Program for All/みんなで“まなびほぐす”美術館-社会を包む教育普及事業-)
神奈川県立近代美術館、茅ヶ崎市美術館、横須賀美術館、平塚市美術館、芸術祭連携団体(相模湾・三浦半島アートリンク)等の関係者が実行委員となり、(公財)かながわ国際交流財団の呼びかけによって平成28年度より立ち上げたプラットフォーム型のアートプロジェクト。美術館の外にある多様な人々・団体とつながりながら、定住外国人や障がいのある方々の美術館へのアクセシビリティーを高めることが意識されているプロジェクト。
平成28年7月にフォーラムを実施。http://www.kifjp.org/mulpa/
〈企画〉茅ヶ崎市美術館
〈主催〉公益財団法人茅ヶ崎市文化・スポーツ振興財団/公益財団法人かながわ国際交流財団
〈協力〉湘南工科大学総合デザイン学科/㈱インクルーシブデザイン・ソリューションズ
〈関連事業〉MULPA(マルパ):Museum UnLearning Program for All/
みんなで“まなびほぐす”美術館―社会を包む教育普及事業―