報告者:藤川悠(茅ヶ崎市美術館 学芸員)
インクルーシブデザインの手法を学んだ後に、いよいよ茅ヶ崎の町を舞台としたフィールドワークに出発しました。
第1回目は、人の五感の中で聴覚に関係するメンバーでフィールドワークを実施しました。
はじめに参加メンバーについて簡単にご紹介します。
参加メンバー紹介
○表現者
金箱淳一さん(メディアアーティスト)
金箱さんは音が映像に変わる作品や、音を振動に変える作品など、
普段から障害のある無しに関わらずみんなで楽しめるような作品作りをしています。
原田智弘さん(音空間デザイナー)
原田さんは、音響機器製品の企画や開発を行い、音の空間作りを得意とされています。
○感覚特性者
西岡克浩さん(美術と手話プロジェクト代表/感覚特性:聴覚)・・・聴覚障がいがある西岡克浩さん
和田みささん(美術と手話プロジェクトメンバー)・・・手話通訳者
市川節子さん(美術と手話プロジェクトメンバー)・・・手話通訳者
西岡さん、和田さん、市川さんは、美術と手話プロジェクトメンバーとして、
普段から美術館で聴覚障がいがある人もない人も一緒に楽しめるようなプログラムを企画・実施されています。
○コアメンバー
鎌倉丘星さん(株式会社インクルーシブデザイン・ソリューションズ取締役/感覚特性:視覚・車椅子)
久世祥三さん(エンジニア/アーティスト/湘南工科大学教員)
坂本茉里子さん(デザイナー/アーティスト)
藤川悠(茅ヶ崎市美術館学芸員)
○安全確保&リポーター
野呂田純一さん((公財)かながわ国際交流財団 副主幹
谷津光海さん(湘南工科大学総合デザイン学科 久世研究室 3年生)
○記録メンバー
写真記録撮影者:香川賢志さん(写真家)
映像記録撮影者:金明哲さん(映像撮影)
当日の流れ
午前中の講演会では、インクルーシブデザインのデザイン手法を行うにあたって「5つの重点ポイント」と「デザイン思考のアプローチ」(下記画像参照)を学びました。
■フィールドワーク
ステップ1:感覚特性者の普段のありのままを観察
「美術館~カフェ、昼食をとるまでの道」のフィールドワーク
総勢13名による茅ヶ崎フィールドワークがスタートしました。
西岡さんにリードしてもらい、みんながお昼ご飯を食べられる場所を探してもらうことに。
道を歩く西岡さんを、みんなが観察し気付きを手元の付箋に記入していきます。
西岡さんは、事前にネットを使って調べておいたというお店にiPhone片手に進みます。
道中は、講演会で学んだ通り、西岡さんにみんな積極的に話しかけ、逐次、和田さんが手話通訳をしてくれます。
ふらりと立ち寄ったアパレルショップ「Pacific Style」さんでは、茅ヶ崎ならでは「烏帽子岩」のキーホルダーを見つけ、西岡さんは「僕のヘアスタイルとちょっと似てるね」とみんなの笑いを誘います。
さて、このやり取りをしているところで、はたと気づいたのは、手話通訳をしてくれている和田さんの存在です。
いつもの西岡さんは1人で生活しているし、買い物もするって言っていました。では、1人の時はどんな感じなんでしょう。
ということで、和田さん市川さんには手話通訳を一旦中断していただき、西岡さんとみんなとの直接の対話が始まりました。
(余談ではありますが、後日お店の方に聞いたところ、このキーホルダーは茅ヶ崎在住のステンドグラス作家さんが
作った手作り1点物。しかも、ほんとはサーフィンのフィンがモチーフになっているとのこと。でも、茅ヶ崎の人はみんな「烏帽子岩」っていうから烏帽子岩で良いんです。と優しく教えてくれました。)
西岡さんが選んだ候補のお店は、美術館から少し海側の鉄砲通り沿いにある小さなお店。
はじめに西岡さんが身振り手振りと言葉で交渉し、途中で原田さんがフォローに入ります。
でも、席数が足りないとのことで断念。次のお店を探すことに。
13人が入れるお店を探すのに早速苦戦です。
茅ヶ崎の海側は、大型のチェーン店は少なく、個人経営の小さなお店が多いのも特徴のひとつです。
迷いながら、なんとなくこっちかなと西岡さんが進んだのは、美術館から更に藤沢方面に進み一中通りへ。
一中通りを海側に進み、辿りついたのはなんともオシャレなヨーロッパ風のカフェ「Double Doors」さん。
人数の多さと撮影者の本格的なカメラに驚かれながらも、快く店内に案内してくださりました。
カフェでの昼食の様子
手話通訳のお二人と離れてテーブルについた西岡さんがとった行動は、まずはテーブルのメンバーの頼みたい料理をiPhoneに打ち込んでから店員さんに提示。
店員さんはうなづきながら「ご飯とパンはどちらに?ご飯が雑穀米と白米どちらにしますか?」と質問を返します。
その質問を理解するのにちょっと戸惑う西岡さん。
その後もテーブル内での会話にところどころ笑顔のみで返す様子も。
遠くから見ていた手話通訳のお二人は、にこにこしている西岡さんはもしかしたら内容が把握できなくて困って居るかもとのこと。
一緒にいつも活動されているお二人だからこその気付きです。
さて、美味しいお昼ご飯をみんなで食べたあとは、美術館へ戻らなくてはなりません。
お店探しに随分苦戦したことで、時間が足りず、駆け足気味に美術館に戻りました。
今度は、フィールドワークで観察したことをもとに、みんなで「感情マップ」を作成します。(次号へつづく)
〈画像〉全て撮影:香川賢志
茅ヶ崎市美術館「美術館までつづく道」(第1回)~特性:聴覚編~
実施日:2018.2.25 12:30-17:00
会 場:茅ヶ崎市美術館とその周辺
参加者:計13名
表現者:金箱淳一(メディアアーティスト)、原田智弘(音空間デザイナー)
感覚特性者:西岡克浩(美術と手話プロジェクト代表/感覚特性・聴覚)、和田みさ(美術と手話プロジェクトメンバー/手話通訳者)、市川節子(美術と手話プロジェクトメンバー/手話通訳者)
コアメンバー:鎌倉丘星(株式会社インクルーシブデザイン・ソリューションズ取締役/感覚特性:視覚・車椅子)、久世祥三(エンジニア/アーティスト/湘南工科大学教員)、坂本茉里子(デザイナー/アーティスト)、藤川悠(茅ヶ崎市美術館学芸員)
リポーター:谷津光海(湘南工科大学総合デザイン学科 久世研究室 3年生)、野呂田純一((公財)かながわ国際交流財団)
記録:香川賢志(写真家)、金明哲(映像撮影)
〈企画〉茅ヶ崎市美術館
〈主催〉公益財団法人茅ヶ崎市文化・スポーツ振興財団/公益財団法人かながわ国際交流財団
〈協力〉湘南工科大学総合デザイン学科/(株)インクルーシブデザイン・ソリューションズ
〈関連事業〉MULPA(マルパ):Museum UnLearning Program for All/みんなで“まなびほぐす”美術館―社会を包む教育普及事業―
http://www.kifjp.org/mulpa/