イベントレポート
2018年8月21日
マルパ・ワークショップ 茅ヶ崎市美術館「美術館までつづく道」レポート(その7) -視覚感覚特性者と盲導犬と歩く道①-

報告者:藤川悠(茅ヶ崎市美術館 学芸員)

6月10日(日)、あいにくの雨模様の中、第3回目のフィールドワークを実施しました。
今回の感覚特性者は視覚障がいがある方と盲導犬。表現者は香りの研究をされている稲場香織さん。

今回もインクルーシブデザイン(*1)のデザイン思考の手法を活用し、感覚特性者の歩き方を、表現者とみんなで観察しながら美術館から海までの道のりを歩きます。

ゲストメンバーについて簡単にご紹介します。

ゲストメンバー紹介

○表現者
稲場香織さん(資生堂グローバルイノベーションセンター香料開発グループ研究員)
普段は化粧品を扱う会社の資生堂で香りの開発のお仕事をされています。

稲場香織さん(香りの研究者)

○感覚特性者
小倉慶子さん(感覚特性:視覚)とリルハちゃん(盲導犬)
小倉さんとリルハちゃんは、隣町からいつも仕事場がある茅ヶ崎に通われています。
普段茅ヶ崎では、駅から職場までを行き来するだけとのことですが、
今回は美術館から海までの道を一緒に歩いてもらうことにしました。

小倉慶子さん(感覚特性:視覚)
リルハちゃん(盲導犬)

ステップ1:フィールドワーク

今回は、美術館から海までの道のりをリサーチ。
美術館からのスロープをおりると、ちょうどクチナシの花と夾竹桃の白い花が満開を迎えていました。
折角なので、稲場さん、小倉さんとともにみんなで花の香りを吸い込みます。

高砂緑地の花々の香りを楽しみます

高砂緑地のスロープをおりると、高砂通りに出るのですが、この道は道幅がせまく車が2台行き交うのがやっとです。
そのため、1本西側にあるサザン通りを進むことにしました。

道幅が広いサザン通りを進み始めた小倉さんとリルハちゃん。
道の角に差し掛かると、リルハちゃんが首を横の道に向け、小倉さんに合図を送ります。

盲導犬は道の角でユーザーに合図を送るように訓練されているそうで、盲導犬ユーザーはその角の回数をもとに
目的地までの道のりを覚えるそうです。

サザン通りを進むうちに、小倉さんに海までは真っ直ぐなのかどうかを尋ねられ道なりであることを伝えると
「ゴー!リルハ」という小倉さんのかけ声とともに、リルハちゃんと小倉さんが周りの予想をはるかにこえる速さで
リズムを刻むように歩き始めました。

その信頼し合い颯爽と歩く一人と一匹のふたりの姿は、なんとも美しく格好良く、周りは驚きと羨望の眼差しで見つめます。

そして、そんなふたりに引っ張られるようにぐんぐんと海まで歩きました。

颯爽と歩く一人と一匹のふたり

小走りになりつつ海に到着すると、不思議なことに、香るであろうと思っていた海の潮の香りが
ほとんど感じられないことに驚きました。

稲場さんの話によると、この日はかなり強い雨風となったので、普段は辺りに漂っているはずの潮の香りが流れてしまっているようでした。

茅ヶ崎のシンボルマーク「C」

海からの帰り道は、茅ヶ崎の中でも入り組んだ細い道を選んで進みました。
途中に現われた急な傾斜のある階段を上がると、そこは茅ヶ崎の由緒ある老舗旅館「茅ヶ崎館」の美しい裏庭でした。
あの小津安二郎監督が定宿とし数々の脚本をここで書いたことは有名です。
きっと、小津監督も広々とした緑の美しい裏庭を見ながら脚本の想像を膨らませていたことと思います。

さて、更に細い道を進みつつ、民家が取り壊されているところで土の匂いを感じたり、
緑地で松の香りを感じたりしながら美術館に戻りました。

映画界の巨匠 小津安二郎監督が定宿とした老舗旅館「茅ヶ崎館」

〈画像〉全て撮影:香川賢志

雨の中でのフィールドワークを無事に終え、
次は、美術館のアトリエでいつもの「感情マップ」の制作にとりかかります。(次号につづく)

*1 インクルーシブデザイン
高齢者、障がい者、外国人など、従来、デザインプロセスから除外されてきた多様な人々を、
デザインプロセスの最初から巻き込むデザイン手法
参照:http://i-d-sol.com/inclusivedesign ((株)インクルーシブデザイン・ソリューションズ)

茅ヶ崎市美術館「美術館までつづく道」(第3回)~視覚感覚特性者と盲導犬と歩く道編~
実施日:2018.6.10 14:00-17:00
会場:茅ヶ崎市美術館から海とその周辺
参加者:計11名(1匹含む)
表現者:稲場香織(調香師)
感覚特性者:小倉慶子(感覚特性:視覚)、リルハ(盲導犬)
コアメンバー:鎌倉丘星(株式会社インクルーシブデザイン・ソリューションズ取締役/感覚特性:視覚・車椅子)、久世祥三(エンジニア/アーティスト/湘南工科大学教員)、坂本茉里子(デザイナー/アーティスト)、
藤川悠(茅ヶ崎市美術館学芸員)
特別見学:原良介(画家)、町田倫子(付添い)
共催メンバー:野呂田純一((公財)かながわ国際交流財団 副主幹)
記録メンバー:谷津光輝(湘南工科大学総合デザイン学科 久世研究室 学生)
記録・香川賢志(写真家)、金明哲(映像撮影)

〈企画〉茅ヶ崎市美術館
〈主催〉公益財団法人茅ヶ崎市文化・スポーツ振興財団/公益財団法人かながわ国際交流財団
〈協力〉湘南工科大学総合デザイン学科/(株)インクルーシブデザイン・ソリューションズ
〈関連事業〉MULPA(マルパ):Museum UnLearning Program for All/みんなで“まなびほぐす”美術館―社会を包む教育普及事業―
http://www.kifjp.org/mulpa/