イベントレポート
2018年8月21日
マルパ・ワークショップ 茅ヶ崎市美術館「美術館までつづく道」レポート(その9) -車椅子ユーザーの感覚特性者と歩く道①-

報告者:藤川悠(茅ヶ崎市美術館 学芸員)

7月29日(日)、台風12号の影響により前日から強い暴風雨。フィールドワークの開催が危ぶまれましたが、
当日の朝にはカラリと晴れて絶好のフィールドワーク日和に!第3回目は、これまで実施したことのない時間帯である夕方~夜にかけて、茅ヶ崎市美術館から海へ、海から茅ヶ崎駅へ、そして美術館へという長距離のフィールドワークを実施しました。

今回の感覚特性者は、電動車椅子ユーザーの和久井さん。表現者はアーティストのアーサー・ファンさん。
インクルーシブデザイン(*1)のデザイン思考と手法を活用し、感覚特性者の歩き方を、表現者とみんなで観察しながら歩きます。


ゲストメンバーについて簡単にご紹介します。

ゲストメンバー紹介

○表現者
アーサー・ファン(アーティスト)
アメリカのワイオミング州に生まれのアーサーさん。1日の道程の記憶を毎日記録し、線で描いて、インスタレーションにしたり、様々な手法で作品を制作されています。2009年に日本に来て、普段は 理化学研究所 脳神経科学研究センター研究員として仕事をされています。

アーサー・ファンさん(アーティスト)

○感覚特性者
和久井真糸さん(感覚特性:車椅子ユーザー)
以前茅ヶ崎に住んでいたという和久井さん。希少難病であるエーラスダンロス症候群の患者会を運営したり、
リードユーザーとして企業へ向けたインクルーシブ研修などをされています。

和久井真糸さん(感覚特性:車椅子ユーザー)

ステップ1:フィールドワーク

まずは、美術館から海までの道のりを感覚特性者の和久井さんをみんなで観察しながらのリサーチです。和久井さんは初めての場所で動くのは大好きということなので、自由に直感に従って海まで進んでもらうことにしました。外に出る前に、早速美術館のエレベーター前での不思議を発見。
車椅子者用のボタンを押してみると光らず、何度も押してみますがやっぱり光らず。
ふと少し上を見ると車椅子のマークが表示されていました。手元のボタンが光るとは限らないということが分かりました、、、。

エレベーターの車椅子ボタンが光らないことを発見

そして、いつもの美術館前のスロープを下りて、左の道へ折れ、狭い住宅街の道を進んでいきます。
私たちから見ると、和久井さんは随分と器用に車椅子を操り、道路のくぼみをスッとよけたり、狭い道でも間隔を図りながらスイスイ進みます。
道中で、車椅子の高さからだと住宅の綺麗な庭が見ることができたり、植物に触れることができたりすることを教えてくれます。
そして、背後から車や自転車が来ることについては、察知して自然とよけていたので、その理由を聞いてみました。
すると、後ろを見るのは面倒だから、お店や家のガラスなどの反射をつかって後方確認をする、という和久井さんならではの技を教えてくれました。

高砂緑地のスロープを下りて、和久井さんは狭い道を選んで進みます
車椅子からの高さとアーサーさんの高さからの視点の差を確かめる
和久井さんは塀の下から住宅のお庭の様子が見え、アーサーさんは塀の上からお庭を見てました
花や植物に触れながら進める車椅子の高さ
自転車やバイクなどの車両進入防止。車椅子はすいすいウェルカムなゲート!

電動車椅子って案外便利なんだと関心していると、突然、陸橋で自転車用のスロープを下りていく和久井さん!!
ちゃんと反対側に大きなスロープが作られているのに!見ている私たちの方が肝を冷やしてしまうような一場面も。

アグレッシブな動きに目が飛び出るかと思うほど驚きました。周りがワァワァと騒ぐのをよそに和久井さんご本人はいたって楽しそうなのですが、、、。

陸橋の自転車用のスロープを下りる和久井さん!

フィールドワーク中、行きたいところには行く!という和久井さんの意志を一貫して感じます。
車椅子でぐんぐん進み、砂浜だって、タイヤが砂にとられつつも進み、夏だけ砂浜に現われる「海の家」へ。

和久井さんは車椅子だから全然疲れていないとのことですが、私たちのことも考えてくれ、ここで一休憩をとることに。
海の家のスタッフの皆さんが満面の笑みで車椅子を引っ張りあげ迎え入れてくれ、みんなでかき氷を食べました。

砂浜だって、タイヤが埋もれつつも進みます
海の家のスタッフの皆さんが快く車椅子をひっぱってくれます
車椅子から畳の上へ移動。のびのびしている様子
みんなでかき氷を味わいました
砂浜から道に出る時、段差をうめるための砂袋の破けた紐がタイヤに絡みあがれませんでした
国道 134号を渡るための地下道

途中で、段差を埋めるために置かれた砂袋が、破けて出てきた紐がタイヤに絡まったり。
和久井さん的にはもっと海まで行きたかったけど、やっぱりタイヤが砂に埋もれてしまうから近くまでは行けないということはありましたが、和久井さんが電動車椅子で進む道は、チャレンジ一杯で目が釘付けの道のりでした。

さて、「海の家」で夏ならではの楽しみを堪能したところで、今度は茅ヶ崎駅を目指します。(次号につづく)

〈画像〉全て撮影:香川賢志

*1 インクルーシブデザイン
高齢者、障がい者、外国人など、従来、デザインプロセスから除外されてきた多様な人々を、デザインプロセスの最初から巻き込むデザイン手法。
参照:http://i-d-sol.com/inclusivedesign ((株)インクルーシブデザイン・ソリューションズ)


茅ヶ崎市美術館「美術館までつづく道」(第4回)~特性:車椅子ユーザーの感覚特性者と歩く道編~
実施日:2018.7.29 16:00-19:40
会場:茅ヶ崎市美術館から海から駅へ
参加者:計9名
表現者:アーサー・ファン(アーティスト)
感覚特性者:和久井真糸(感覚特性:車椅子ユーザー)
コアメンバー:久世祥三(エンジニア/アーティスト/湘南工科大学教員)、坂本茉里子(デザイナー/アーティスト)、藤川悠(茅ヶ崎市美術館学芸員)
共催メンバー:野呂田純一((公財)かながわ国際交流財団 副主幹)
記録メンバー:谷津光輝(湘南工科大学総合デザイン学科 久世研究室 学生)
記録・香川賢志(写真家)、金明哲(映像撮影)


〈企画〉茅ヶ崎市美術館
〈主催〉公益財団法人茅ヶ崎市文化・スポーツ振興財団/公益財団法人かながわ国際交流財団
〈協力〉湘南工科大学総合デザイン学科/(株)インクルーシブデザイン・ソリューションズ
〈関連事業〉MULPA(マルパ):Museum UnLearning Program for All/みんなで“まなびほぐす”美術館―社会を包む教育普及事業―
http://www.kifjp.org/mulpa/