イベントレポート
2020年11月10日
「ふれて すすむ まえへ 展」アーティスト・インタビュー3【松永勉さん(映像作家)】

文・池田美砂子(フリーライター)/写真・八幡宏

神奈川県が推進する「ともいきアートサポート事業」。その一環として、この秋、茅ヶ崎市美術館は茅ケ崎養護学校中学部の皆さんとともに“音”と“身体”に焦点をあてたワークショップに取り組みました。教室にあふれた様々な“触れる”表現は、映像作家のカメラに収められ、美術館に展示されています。同時開催の「茅ヶ崎寒川地区中学校美術作品展」とあわせ、地域の同年代の多様な表現活動にふれていただく機会となることを目指した本プロジェクト。今回は、茅ケ崎養護学校でのワークショップの様子を二宮在住の写真家・八幡宏さんの写真とともに、茅ヶ崎在住のフリーライター・池田美砂子さんにレポートしていただきました。今回は、その第5弾、映像作家・松永勉さんへのインタビューです。 藤川悠(茅ヶ崎市美術館 学芸員)

*ともいきアートサポート事業とは
神奈川県では、「ともに生きる社会かながわ憲章」の理念に基づいて、障がいの程度や状態にかかわらず、誰でも文化芸術を鑑賞、創作、発表する機会の創出や環境整備を行うため、展示や創作活動支援等を実施しています。事業統括:神奈川県福祉子どもみらい局共生社会推進課

これまでの記事> 第1弾:茅ケ崎養護学校ワークショップレポート 第2弾:教員のみなさんの声 第3弾:アーティスト・インタビュー1 第4弾:アーティスト・インタビュー2

ワークショップの様子を映像作品として記録された松永勉さん

松永さんは、共感する活動の現場を映し出し、映像を通して人と人、人と地域、今と未来を“つなぐ”ことをテーマに活動されています。ワークショップ前のインタビューでは、「自然なかたちで映像にしたい」とおっしゃっていました。カメラのファインダー越しに、何を感じていたのでしょうか。


(プロフィール)
松永 勉
人と人、人と地域、今と未来をつなぐことをテーマに活動する映像作家。映画やコマーシャルの仕事に携わったのち、東日本大震災を機に映像の役割を見つめ直し、「未来シネマ」の活動をスタート。新しいライフスタイルや教育、地域活動の現場を映し出し、そこから垣間見える“幸せの方程式”を伝えている。

触れ方で変わる作品世界

—2日間のワークショップ、ファインダー越しに見ていて、いかがでしたか?

松永さん:そうですね、肢体不自由教育部門は、車椅子で自由に動けない子もたくさんいましたが、明らかにみんな興味あるように感じました。なかにはずっと気に入って触っている子もいましたし。
先生に聞いたら、普段あんなに集中することはないらしいですね。それに、いつもは何を差し出しても体が動かないような子が、自分の意志で手を伸ばしに行ったとおっしゃっていました。MATHRAXさんの作品の持つ力なんだな、って感じました。

—作品の力が彼らに変化をもたらせたんですね。知的障害教育部門の子たちも、本当にいきいきと表現していました。

そうですね、みんな活発で体から喜びを表している感じで。何度も触りに行ったり、テンションが上りつつも、1人がずっと占領するような感じじゃなくて。それも音のハーモニーが彼らに伝染しているといいますか、そんな感じがしましたね。


—優しさを伴ったテンションの上がり方でしたね。どんなことを意識して撮影されていましたか?

今回、表情は映さないことが前提での撮影だったので、そのなかで、生徒さんたちの様子をどのようなかたちで伝えていくかが自分にとって大きな課題でした。


—生徒さんの触れる様子を一番見ていらっしゃったのは松永さんだったと思います。いかがでしたか?

《うつしおみ》は、木に触れると音が出るというシンプルな作品なんですが、養護学校の生徒さんたちは、触れ方も反応も全然違って、ファインダーを通して眺めているだけで楽しかったです。最初は先生に導かれて触れていた子が、徐々に自分で触れるようになったり、気に入ったオブジェをしっかりと握りしめている子がいたり。決して派手ではないですが、指先にまで思いが届いているような、そんな強い印象を受けました。

被写体の思いを映像で伝える、という役割

—松永さんの映像は、会場でも流れるんですよね。どのようなコンセプトでつくられましたか?

生徒さんの表情を映さず、手元の映像だけでワークショップの様子を伝えることができるのかと不安もあり、当初はいろいろな人のインタビューなども交えて構成しようと思っていました。ただ、編集の段階で改めて生徒さんたちが触れる様子を見た時に、顔は写っていなくても、彼らの指先にはとても豊かな表情があって、自分自身が見入ってしまったんです。彼らが触れる様子をそのまま流すだけで十分に伝わるのではないかと思って、最終的には生徒さんたちの「触れる」様子だけを映像にまとめました。

—《うつしおみ》自体がどんな人のどんな表現も許容する包容力のあるものですが、松永さんの映像で自由度が増すのではないかと思います。

来場された方には、触る人によって《うつしおみ》は変わるし、自由に触っていいんだよ、ということが映像から伝わるといいな、と思っています。
展示では、養護学校で開催されたワークショップの映像を流しますが、それとは別にMATHRAXさんやダンサーの岡田智代さんのインタビューなども交えた展示全体の記録映像も制作する予定です。展示やワークショップに関わったさまざまな人の思いなども合わせて、伝えられればと思っています。

“人の思いを伝える”という役割を全うする。そんなあり方がまっすぐに伝わってくる松永さんの映像作品は、「ふれて すすむ まえへ」展の会場でご覧いただけます。また、会期中も撮影を続け、最終的にドキュメント映像も制作されるそう。こちらも楽しみです。

作品、アーティスト、触れる人。さまざまな人との出会いが織りなす、あらゆる表現が祝福される世界。みなさんもぜひ、体感してみてください。