今月の1点 Monthly Pickup 3月
 
 

        
           「五浦晨雪 (いづらしんせつ)」 [小下図]


鈴木 至夫 (すずき のりお) ( 1929‐   )作

1997(平成9)年 紙本着色 24.5センチ×24.5センチ


鈴木至夫《五浦晨雪》
 

 モダンな人物画を院展に出品していた日本画家鈴木至夫はその後、風景画を中心に独自な画風を確立しました。旅をし、荒々しい風土のもつエネルギーを人の生活と対照的に描くことで知られていますが、題材として寒冷地の漁村など、苛酷な風土が選ばれることが多いようです。
 この絵に描かれた場所を何度か訪れたことがあります。常陸の太平洋沿岸、絶壁に波が打ち寄せるダイナミックな海の風景でした。そばに茨城県天心記念五浦美術館と茨城大学の美術文化研究所があります。急な岩場を降りていくと途中に小さな六角の小屋がポツンと置かれるようにありました。この絵そのままの風景でした。
 しかしちょうど一年前の2011年3月11日の午後にこの風景は消えてしまいました。もともとは明治38年、岡倉天心が横山大観、下村観山、菱田春草ら日本画家たちを引き連れ、日本画革新のために移り住んだ特別の場所です。六角堂は天心が太平洋の向こうのアメリカなど外国の動向を意識しつつ日本美術の再興を構想するため、海のオーラを身に浴びるための場所ではなかったでしょうか。この地にいた画家たちもよく描いた海底の龍にひとたまりもなく呑み込まれてしまったのでしょう。
 絵の中で弁柄色に塗られた小さな六角堂が明け方の風雪や波に耐えるようたたずんでいます。震え慟哭するような海が14年後の光景を予感させるのは絵のもつ不思議な力です。
同題の院展出品作が外務省に所蔵されています。(本作品は3月11日より「2012春季収蔵作品展」に出品されます)。

(美術館 M.O )

< 略歴 >
1929年 茅ヶ崎に生まれる。 茅ヶ崎小学校の同級生に浮田克躬、森治郎がいた。湘南中学(現県立湘南高校)卒業。1954年東京藝術大学日本画科卒業。前田青邨に師事。茅ヶ崎高校の教師などをつとめる。紺綬褒章受章。院展特待。2000年、茅ヶ崎市美術館において「画業五〇年鈴木至夫展」が開催された。