今月の1点 Monthly Pickup 8月
 
 

                 
                「むし暑い夜 」


浜田 知明 (はまだ ちめい) ( 1917‐   )作

1985年、銅版・紙、23.3センチ×15.5センチ


むし暑い夜
 

 先月、洞爺湖で開催されたサミットの緊急のテーマは、地球温暖化をはじめ環境問題をみんなで考えようということでした。というわけでもないのですが今月はそれでなくとも暑い夜をさらにうっとうしくさせるような作品を選んでしまいました。
 クーラーのない時代にはありふれた光景だったのかもしれませんが開け放たれた窓から神経を逆なでする叫び声が容赦なく侵入してきます。屋根の上で尾や毛を逆立て盛んにモーションをおくる雄猫。それに対し、別の家の屋根の雌猫はそしらぬふり。これだけでも身につまされるヒトの世の縮図です。街を照らす月明かりと湿気を含んだよどんだ熱波が雌猫の尾の渦巻きにまで幾重にも響き合い、それが直線的な家や植え込みを照らす明るい窓の電灯、つまりヒトの生活を暗示する要素と対照をなしているようです。
1917(大正6)年に熊本県で生まれた浜田知明は戦後を代表する版画家で、人間の本性を凝視し、それを美化せずあるがままに、ときに鋭く告発するような作品を発表してきました。みずから従軍した戦争体験を主題とした作品がよく知られています。しかし常にその視線の奥底にヒトへの深い共感、フモールがあることを感じさせる作家です。このユーモラスな作品には浜田のそうした面がよく出ているように思います。見る人には逃げ場のない不快な空気が喚起されるのかもしれませんが同時に、唸り声はヒトを目覚めさせ、言葉にならない何かのメッセージや警告を伝えようとしているのかもしれない。などとふと思いました。
 この作品は9月7日まで開催中の常設展 『夏季収蔵作品展』でご覧いただけます。また浜田の作品はこのほかに、《アレレ・・・》(1974年制作、銅版)も展示しています。

(美術館 M.O )

< 略歴 >
1917年熊本県に生まれる。39年東京美術学校(現・東京芸術大学)油画科を卒業後、現役兵として入隊、20歳代の大半を軍隊で過ごした。48年美術文化協会会員(翌年退会)。同年、自由美術家協会会員(59年まで)。50年より本格的に銅版画の制作をはじめ、自らの従軍体験をもとにした〈初年兵哀歌〉シリーズの発表を開始する。56年第2回現代日本美術展で佳作賞、同年第4回ルガノ国際版画展で次賞、60年第4回現代美術展で優秀賞、62年第2回現代日本美術展で第2回福島賞をそれぞれ受賞。また79年アルベルティーナ版画素描館(オーストリア)、93年大英博物館日本ギャラリー(英国)で回顧展を開催、最近ではウフィツィ美術館(イタリア)で展示・収蔵される(2008年)など、国際的にも活躍している。