今月の1点 Monthly Pickup 8月
 
 

        
           「 情報過多的人間 」

        『浜田知明銅版画集 見える人』より


浜田 知明 (はまだ ちめい) ( 1917‐   )作

1975年、銅版・紙、22.3センチ×14.6センチ


情報過多的人間
 

なにものも聞き漏らすまい、というように、おおきくひろがった耳。
なにものも見逃すまい、というように、あちこちを向いた四つの目。
どんなにおいも嗅ぎ漏らすまい、というように、まるく開いた鼻の穴。
なにもかも味わってやろう、というような、半開きのおおきな口。

 「情報」を得られないことは、この男にとっては何にもまして耐え難いことなのでしょうか。
 しかし、この男には、せっかく集めた「情報」を処理し、また、自分の意思をつむぎだすべき脳がありません。これでは、収集した「情報」を感じることすらできやしません。それでもなお、男は知覚器官を精一杯伸ばし、ひろげて、奇妙な姿で立ちつづけています。
 けれどもわたしたちは、この奇妙な男を嗤(わら)うことができるでしょうか?
 自分で判断することもせず、「情報」の洪水のなかで漂っている人間を、一皮剥けばこのような姿をしているのかもしれません。

 この作品は、現在開催中の夏季収蔵作品展(9月4日まで)にて展示しています。

(美術館 N.Y )

< 略歴 >
1917(大正6)年熊本県に生まれる。1934(昭和9)年、16歳で東京美術学校(現・東京藝術大学)油画科に入学し藤島武二らの指導を受けるが、1939(昭和14)年の卒業と同時に応召、歩兵砲隊に配属され中国大陸を転戦。1943(昭和18)年に満期除隊となるが、翌年再応召し伊豆七島の新島で兵役に就く。復員後、熊本で教員となるが1948(昭和23)年に上京。1950(昭和25)年から駒井哲郎や関野準一郎から銅版画技法を学びその制作を開始。翌年からはじめた「初年兵哀歌」シリーズが反響を呼ぶ。1957(昭和32)年、熊本に戻り、以降同地で制作を続ける。1983(昭和58)年頃からブロンズ彫刻もてがけ、90歳をすぎた現在も制作をつづけている。
現代日本美術展にて佳作賞・優秀賞・福島賞を、ルガノ国際版画ビエンナーレ次賞、フランス政府より芸術文化勲章を受けているほか、国内外の美術館で個展が開催されている。