今月の1点 Monthly Pickup 7月
 
 

        
                「 百鬼夜行 」


田澤 茂 (たざわ しげる) ( 1925‐   )作

2008年、油彩・キャンバス、162.0センチ×194.0センチ
個人蔵


田澤茂《百鬼夜行》
 

 黒地にうねる赤、はねる赤、にじむ赤。
 人が持つ様々な感情のなかでも特に強いもの、例えば怒りや憎しみや恐怖、或いは衝動や情熱、歓喜 ― そういった激しい心の動きを想起させるような、強烈な色使いと動的な筆致。
 そこに何が描かれているのかと想像するよりも先に、理性を少し飛び越えた場所で、画面から迸る不可視の圧倒的な力に引き込まれます。
 百鬼夜行と題された本作は、作者が90年代から描き続けている、いわゆる魑魅魍魎シリーズに連なる一枚。シリーズのなかには、先人の残した百鬼夜行絵巻等の世界から直接的なイメージを得たものが多く見られますが、本作では形象の単純化、記号化が進み、より観念的な表現となっているように思われます。
 右端には、サインとともに「雷風」の文字。これが、百鬼夜行 ― 妖怪変化たちが跳梁跋扈する夜闇と、それを打ち払うように或いは煽るように、神化された雷と風がその権勢を振るう姿を描いたものとすれば、この熱狂的な色と形象の饗宴の果てには一体何が待っているのでしょうか。
 本作は、現在開催中の共催展「第28回茅ヶ崎美術家協会展」(7/17まで)にて展示されています。協会の求心力の中心にいる作者自身と同様、個性派揃いの協会員たちの作品が並ぶなか、本作はひと際大きな存在感を放っています。

(美術館 J.K)

< 略歴 >
1925年、現在の青森県南津軽郡田舎館村に生まれる。29年北海道に移住。39年父親とともに金山にて就労(以後鉱山を転々とする)。45年青森県弘前市の連隊に入隊。同年終戦、復員。48年平塚市、次いで藤沢市辻堂に移住。漫画やイラスト等の仕事で生計を立てる。51年子供の絵画教室「どんぐり美術会」開設。53年猪熊弦一郎に師事、同年新制作協会展初入選 (67年会員推挙、88年運営委員長就任)。71年渡欧、サロン・ドートンヌ出品。80年岩手大学特設美術科非常勤講師となる。2000年、田舎館村に村立弥生の里博物館・田澤茂記念美術館開館。03年茅ヶ崎市美術館企画展「奔放自在 田澤茂の絵画世界」開催。