今月の1点 Monthly Pickup 6月
 
 

        
                「 茅ヶ崎風景 」


萬 鐵五郎 (よろず てつごろう) ( 1885‐1927 )作

制作年不詳、鉛筆、コンテ・紙 31.2センチ×47.0センチ


萬鐵五郎《茅ヶ崎風景》
 

 春季収蔵作品展(2010年4月4日〜6月13日)に出品中の萬鉄五郎のデッサンをご紹介します。
 初夏の茅ヶ崎南湖あたりの風景でしょうか、藁葺きの屋根が畑の中に見えます。もちろん茅ヶ崎らしい松並木も。弾力あるコンテの肉太の線描が繰り返され、全体に響く力強いリズムをつくっています。その場にいた画家の目、頭、手が即座に連動して画家の感興が伝えられる。そんな印象を受けます。屋根の下で確かに人間の暮しがあることが感じられるし、松を渡る風の音も聞こえそうです。スケッチの名手でもいつもこういうわけにはいかないでしょう。
 日本最初の前衛美術家として早くにスタートし、八面六臂の活躍で短い人生を駆け抜けた萬ですが生涯の最後を過ごした茅ヶ崎での制作活動はだいぶ様子が違います。南画と呼ばれる水墨の柔らかな線描を重ねる東洋的な山水画を多く手がけるようになりました。日本人の心性、自然観にすんなり受け入れられる水墨画は今も愛好者は多いのですが、往々にして現実の風景の感動を理想的な型にはめて弱めてしまうこともあったのではないでしょうか。その点このスケッチでは空振りの身振りではなく対象から受け取られた何かを紙に移していく緊張感ある過程が好ましく思われます。
 ここで知られざるエピソードをひとつ。実は萬と同じ11月17日生まれでしかも茅ヶ崎に縁がある美術家がもう一人います。萬より19歳年少のイサム・ノグチです。でも茅ヶ崎に来たのはイサムのほうが先でした。残念ながら二人が茅ヶ崎で出会ったことはなかったでしょう。萬が療養のため茅ヶ崎に来た前年にイサム少年は単身アメリカに渡ってしまいましたから。

(美術館 M.O )

< 略歴 >
岩手県花巻出身の画家。東京美術学校(現・東京藝術大学)に学ぶ。ポスト印象派やフォーヴィスム絵画をいち早く日本に紹介するなど前衛画家としてめざましい活躍をする一方、晩年は日本画や南画を多く制作した。