今月の1点 Monthly Pickup 3月
 
 

        
                  「 隅田川夜 」


小林 清親 (こばやし きよちか) ( 1847‐1915 )作

明治10年代、木版(多色)・紙、20.3センチ×31.0センチ


小林清親《隅田川夜》
 

  藍と灰色の中間のトーンが美しい透明な夜の絵。描かれているのは誰でも知っている江戸以来の名所、大川端です。向島の竹屋の渡しのあたりでしょうか。
  しかし不思議な木版画です。極彩色の江戸の錦絵とはずいぶん違っているではありませんか。船を待つ男女は影絵のようにあらわされて表情をうかがうことができません。静かな水面に映る対岸の浅草の灯。男の手にするのは小田原提灯でしょうか。そうすると作者が写し、伝えようとしたのは「光」そのもののように思えてきます。この手法はかなり実験的な試みとして当時の人々に珍しく感じられたはずです。
  明治は激動の時代でした。江戸時代まで続いてきたあらゆるものが崩壊し、新奇なものが登場する日常を人々は生きました。でもここでは昼の街の喧騒がおさまり、江戸の夜がよみがえったようです。ここは江戸時代から庶民がわずかな娯楽を求めてそぞろ歩く場所でした。江戸末期にこの地で生まれた清親は新しい手法で失われていく懐かしい場所を記録しようとしたのかもしれません。
  小林清親は最後の浮世絵師と呼ばれることが多いのですが同時に最初の近代木版画家という側面も見逃せません。西洋絵画や写真の影響を受けながら伝統的な手法によって新しく多様な表現や主題(戯画や日清・日露戦争)に挑戦し続けた絵師でした。

(美術館 M.O )

< 略歴 >
1847(弘化4)〜1915(大正4)幕府役人の子として江戸に生まれ東京で歿した版画家。横浜でワーグマンに洋画を学ぶ。明治10年代の光と闇を対照させた清新な風景画は「光線画」として知られる。