今月の1点 Monthly Pickup 6月
 
 

        
                   「 作品B 」


西野 久子 (にしの ひさこ) ( 1914‐2008 )作

1960年、油彩・キャンバス
144.5センチ×225.5センチ


作品B
 

 今回紹介するのは長年茅ヶ崎を生活と創作の場とし、地域の美術教育にも尽力し昨年93歳で亡くなった西野久子の46歳の作品です。
 画家の存命中は初期、前期の作品はひとつの通過点とみなされさほど重視されないのかもしれません。画家が最後に絵筆を置いた後で、作品たちは初めてその位置が決まり、本当の評価がはじまるのではないでしょうか。
 西野は世界を旅し、アフリカや南太平洋で自然と共生する人々の生命力あふれる姿をライフワークとして描き続けました。明るく屈託のない遠い異国の子どもたちを描く作品がよく知られ愛されています。
 しかし今回紹介した《作品B》には西野らしい鮮やかな原色のほかは具体的な形象を見つけることは難しく、思わせぶりなタイトルもありません。むしろ鑑賞者の自由な解釈にゆだねるようにむきだしで投げ出された色や形が見どころとなっています。けれどもこれは実験的な習作ということはできず、むしろここに画家の最初の完成があるとみるべきでしょう。壮年期の西野の格闘の過程を追体験することも可能です。激しい運動に支配されていますがけして高ぶった感情や勢いにまかせて描いたのではなく、全体に無秩序に広がる色彩や形が画家の頭と目と手の連動によりやがて大きなひとつの全体へと導かれるプロセスをたどることができるでしょう。その創造の過程こそがこの作品の主題となっているのです。

(美術館 M.O )

< 略歴 >
1914(大正3)年、静岡県清水市生まれ。結婚後絵画制作をはじめる。1947(昭和22)年、茅ヶ崎市に転居。独立美術協会、女流画家協会、茅ヶ崎美術家協会会員。2001(平成13)年、茅ヶ崎市美術館において「原色の生命―西野久子展」開催。2008(平成20)年5月逝去。