今月の1点 Monthly Pickup 10月
 
 

                 
                   「 野分の径 」


工藤 甲人 (くどう こうじん) ( 1915‐2011 )作

1974年、紙本着色、44.5センチ×59.8センチ
個人蔵


野分の径
 

陽光眩しい夏が過ぎ行き、季節は冬に向けて準備を始めます。日射しは和らぎ、風は少しずつ冷気を帯びて、紅葉の錦や実りの収穫といった賑やかさに彩られながらも、舞い散る落ち葉が着実に秋の静寂と寂寥を深めていきます。
野分とは、文字通り野の草を風が吹き分ける、の意。特に立春から数えて二百十日〜二百二十日目(9月上旬)に吹く強い風、台風のことを指し、源氏物語や枕草子にも記述を見ることができます。
画中の風はさわさわと草木を踊らせながら、左から右へと小径を吹き抜けています。画面左に描かれた紫色の実はノブドウ、卵形の実はアケビでしょうか。画面下で揺れるワレモコウの暗紅色の花が、秋の情趣に愛らしさを添えています。
工藤甲人の作品には、樹木や鳥、蝶などの動植物が多く見られます。それらは画家の詩的情感が生み出す幻想的な美しさを身に纏い、時に春の喜びを、時に冬の厳しさを、そして季節が輪のように繋がり廻って行くその意味を、画面に浮かび上がらせます。
本作にも蝶が描かれていますが、嵐を予感させる強い風に飛ばされまいと必死に草葉にしがみつく姿に、人は何を見るでしょうか。
この作品は、現在開催中の企画展「S氏のコレクション―日本画の名品を中心に―」 (11/9まで)にて展示されています。

(美術館 J.K )

<略歴>
1915年、青森県弘前市に生まれる。本名は儀助。34年上京、翌年川端画学校日本画科に入学。39年新美術人協会展入選、この頃より福田豊四郎に師事。40年応召、45年復員。50年制作を再開、51、56年新制作協会展にて新作家賞受賞。62年平塚市に転居、アトリエ名は「蝸牛居」。63年日本国際美術展にて神奈川県立近代美術館賞受賞、同館買上げ。64年現代日本美術展にて優秀賞受賞、また新制作協会日本画部会員となる。71年東京藝術大学助教授に就任(78年教授、83年退官のち名誉教授)。74年創画会結成に参加。87年芸術選奨文部大臣賞受賞。現在創画会会員。津軽の自然と詩を愛する心に裏打ちされたその幻想的な作品世界は、土俗の温かみを伴う一種独特の神秘性を以て見る者を魅了する。