今月の1点 Monthly Pickup 6月
 
 


岩本 和子 (いわもと かずこ) ( 1935‐   )作

2007年、油彩・キャンバス、個人蔵


 

見覚えのある形が描かれている絵を具象画、そうではない絵を抽象画と呼ぶ言い方は便宜的なものにすぎません。現代の多様な絵画芸術のあり方を指すにはもはや不正確というべきでしょう。
この作品の中にも私たちが見知っている形を見つけることはできないかもしれません。しかし、それはもしかすると具体的な形が生まれる前か、または形が形でなくなった後、あるいはその変容の途中をあらわしているからなのかもしれない、とは考えられないでしょうか。
流動し続け、新しい形を生み、またそれらを呑み込んでしまう世界とはかつて画家がタクラマカン砂漠で経験した実在する世界。そういう意味で大変具体的な主題なのです。怪獣の大きな口から勢いよく吐き出される雲気が幾重にも渦巻いているようにも見えます。砂や粉じんが吹き荒れる風景が連想させる死とか孤独感とはちがって、この作品の特長はあたたかな色彩の層の重なりにみられる、生命の再生や希望につながるものがあるということでしょう。
興味深いエピソードをひとつ。この作品は実は茅ヶ崎市美術館で2005年に開催された「―祈りの空間―岩本和子展」に出品された同タイトルの作品と同じです。ところがどうしても作者の気に入らず2年後に描き直されたものなのです。からみ、もつれ合うリボンが解けたように整理された構図でよみがえったのがこの作品です。風力が一層強まったかもしれません。移動し続ける砂漠のように絵画作品も進化し続けるという好例。

この作品は6月24日からの「第26回茅ヶ崎美術家協会展」に展示されます。

(美術館 M.O )

< 略歴 >
東京都生まれ。1958年東京芸術大学美術学部油絵専攻卒業。1962年から1969年まで国画会に出品。以降は個展での発表に切り替える。1972〜2000年インドへ、1995年〜中国シルクロードへ取材に訪れ現在に至る。2005年茅ヶ崎市美術館で企画展『―祈りの空間― 岩本和子展』が開催される。その他、グループ展多数開催。現在市内中海岸在住。