今月の1点 Monthly Pickup 8月
 
 

「龍燈」
筆谷 等観 ( ふでや とうかん ) (1875−1950)作

1936年,日本画(紙本着色)/二曲一双屏風,各172.0×172.0cm



 海の匂いがいささか強く感じられる夜には、暗い波間に青白く明滅する不思議な光が見られることがある。見る者を海中へ誘うかのようなその妖しいきらめきは、夜光虫の発する燐光だ。小樽出身のこの作家も、その現象を目にしたことがあっただろうか。群青や緑青など古(いにしえ)よりの彩色に優しく支配された海底の宮の静寂、そこに佇むは宝珠を捧げ持つ観世音とおぼしき姿。うっすらと微笑みを浮かべつつも容赦なく対峙者を見据えるそのまなざしは、威厳と慈愛とを伴い、人の心の奥深くへと何事か語りかけてくる。

*龍燈−海中の燐光が灯火のように連なり現れる現象(『広辞苑』第四版/岩波書店)