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今月の1点 Monthly Pickup 6月

《家族(オーストラリア)》 西野久子(にしの・ひさこ 1914~2008)

(読み方:かぞく・おーすとらりあ)
1981(昭和56)年 油彩・キャンバス 縦184.0×横229.5(cm) 《茅ヶ崎市美術館蔵》

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静岡県清水市(現・静岡市)出身の西野久子は、1947(昭和22)年、夫と子供とともに、それまで住んでいた芦屋から茅ヶ崎市中海岸に転居した。小学生の頃に図画教師から褒められたことがきっかけとなった絵画への情熱は、戦争を挟んだ混乱の中で途切れたものの、生活の安定によって再燃した。独立美術協会会員の樋口加六、横地康国、高間惣七らの指導を受け、同会主催の展覧会に出品。また、独立美術協会と関わりが深い桜井浜江、三岸節子らが創立した女流画家協会展などにも出品し、それぞれの団体で評価され、会員となった。

転機となったのは1968年である。その頃、夫・照太郎は国立国会図書館に勤務する傍ら、アフリカや中米、オーストラリアの社会問題や経済開発の研究を続けており、68年に初めて妻を伴い現地をたずねた。それぞれの土地の風土や文化の中で大地に根ざして生きる女性、そして子供の活き活きとした様子を目のあたりにした西野は、先進国には無い生命の原初的な活力に感動し、以後彼女たちを生涯のモチーフとする事を決心する。

フォーヴィスムの影響を強く受けた美術団体である独立美術協会の画家らしく、その筆触は荒々しく、色使いは激しい。しかし、すらりと長い手足と強く輝く瞳を持った女性や愛くるしい子供の表現は伸びやかで、作者の、同性に寄せる共感や尊敬、子供に向ける優しさを伝えている。

この作品《家族(オーストラリア)》はオーストラリア先住民の家族を描いている。先住民が実際に洞窟の壁画に残したアボリジナル・アートを連想させるパターンが画面上部と下部に描かれているが、現実的な空間を表現しようとする作者の意図は無く、人物の出自を示すとともに具象的な人物描写と対比させる抽象的な図様としての役割を担わされている。よく見ると登場人物は女性だけのようである。年齢も構成も不明ながらも彼女たちの眼差しは強く、それぞれわずかに異なる方向を向いている。「家族を描いている」と先述したが、その根拠は作品の題名に「家族」とあるからである。女性だけの家族も当然ある。しかし厳密に血が繋がった家族なのかそうでないか、男性はどこかに行っているのかそうでないかを考えることはあまり重要な事ではない。ここでの「家族」とは同じ目的を持つ共同体という程度の意味であろう。同性の共同体における強い連帯感とともに「女性」そのものの来し方、行く末を意識させる、スケールの大きい作品となっている。

西野久子が創立初期から参加した茅ヶ崎美術クラブの後身・茅ヶ崎美術家協会展の第35回展が2017年6月13日(火)から7月8日(土)まで茅ヶ崎市美術館で開かれています。

 

(美術館 T.T) 

<略歴 >

1914(大正3)年、静岡県清水市(現・静岡市)生まれ。結婚後絵画制作をはじめる。1947(昭和22)年、茅ヶ崎市に転居。独立美術協会、女流画家協会、茅ヶ崎美術家協会会員。2001(平成13)年、茅ヶ崎市美術館において「原色の生命―西野久子展」開催。2008(平成20)年5月逝去。

 

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