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《 誕生 》 島谷 晃 ( しまや・あきら 1943~2010 )

1976(昭和51)年 リトグラフ・紙 縦68.0×横53.0(cm) 《個人蔵》

 

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 燃え盛る炎を頭に戴[いただ]いた鳥は「火の鳥」でしょうか?
 雛鳥が卵の中から嘴[くちばし]で殻を叩く(=啐)のと同時に、親鳥が外から殻をつつく(=啄)ことを禅の言葉で「啐啄[そったく]同時」といいます。そのタイミングが合うことで雛が卵から孵[かえ]ることになぞらえて、弟子が悟りを開こうとする機に、師が相応しい教えを与えて悟りに導くことを示します。
 この作品では子と親が早すぎず、遅すぎもしない頃合いで卵の内外で啄[ついば]み合い、小さな生命が誕生した瞬間が描かれています。
 深みのある鮮やかな色彩の、版画としては大判のこの作品は、島谷晃さんの最初のリトグラフ(石版画)作品です。
 1975(昭和50)年11月に東京・神宮前のギャルリーワタリで開催された個展にF50号(縦116.7cm、横90.9cm)のアクリル画〈誕生〉が出品されました。同年初めてヨーロッパを訪れ、パリで開催したグループ展にも島谷さんはアクリル画の〈誕生〉を展示、作品は現地のフランス人に買い取られました。翌年、購入者はその作品をもとに25色刷のリトグラフを制作してくれたのでした。今回の企画展「―まぼろしの翼― 島谷晃展」に展示している作品はこの時つくられたリトグラフのうちの一点であり、同じ作品はフランス国立図書館に収められています。
 企画展の開催前日、ご遺族からお預かりした資料ファイルのなかから〈誕生〉のエスキース(下図)が「発見」されました。一冊のクリアファイルの最初のポケットに別の作品のラフスケッチが入っていたのですが、なにげなくそのラフスケッチを取り出したところ、思いがけなく〈誕生〉のエスキースが現われたのです。そして、取り出したラフスケッチの余白には島谷さんの文字で「今度生まれた(抹消線) (同) 自分の娘の誕生を記念して 素晴らしい羽根を持った 鳥のような心を持った人に なってほしいと思って描きました」と書き込まれていました。この言葉が〈誕生〉について語られたものという確証はありません。しかし、画題、モチーフともに〈誕生〉に寄せてのコメントと受けとめてもよいのではないでしょうか・・・。
 いずれにせよ、まるで展覧会に展示してくださいと言わんばかりのタイミングで出現したエスキースは早速額装されてリトグラフの〈誕生〉の隣に設置されています。

この作品は2016年1月31日(日)まで「―まぼろしの翼― 島谷晃展」に展示されています。

(美術館 N.Y)

<略歴 >

 島谷 晃しまや・あきら 1943~2010
1943(昭和18)年7月1日、藤沢市片瀬に生まれる。小学生の頃から田澤茂[たざわ・しげる]が主宰する「どんぐり美術会」に通う。1963年、早稲田大学第一文学部文学科美術専修に入学。学内サークルの「美術研究会」に所属。1966年、夢土画廊(東京・銀座)にて個展開催。以降、個展多数。1975年、フランス・パリにてグループ展開催。以降、海外での作品発表多数。1976年、5月より翌年4月までオランダ、アムステルダムに留学。1978年、第1回現代童画会展にて佳作賞を受賞。1983年、宝生寺(茅ヶ崎・西久保)の壁画「孔雀明王図」が完成する。以降、西念寺(鎌倉・岩瀬)、勧行寺(鎌倉・腰越)、妙福寺(藤沢・打戻)ほかの壁画や天井画を多く手がける。1985年、宮沢賢治の童話に絵を添えた『おきなぐさ』を出版。カバー前袖の文章は澁澤龍彦。1988年、文化庁芸術家在外研修員、日米芸術家交換計画日本側派遣芸術家としてニューヨークにて研修。1996年、神奈川県民ホールギャラリーにて現代作家シリーズ‘96「島谷晃展 夢幻の世界・リアルな眼差し」が開催される。2001年、池田20世紀美術館(静岡・伊東)にて「島谷晃の世界 鳥になった画家」が開催される。2010(平成22)年5月21日、脳溢血のため逝去。2015年、茅ヶ崎市美術館にて企画展「―まぼろしの翼― 島谷晃展」が開催される。

 

 

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