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今月の1点 Monthly Pickup 6月

《画室の人物(3)》 三橋 兄弟治 ( みつはし・いとじ 1911~1996 )

1954(昭和29)年 水彩・紙/額装 縦75.4/横55.8(cm) 《茅ヶ崎市美術館蔵》

三橋兄弟治《画室の人物(3)》スペインに魅せられ、哀愁漂う詩情に満ちた風景画を描いたことで知られる三橋兄弟治ですが、今回はまだ彼の地に出会う以前、43歳の時に描いた作品を紹介します。
女性が一人、椅子に腰かけていますが、画面の配置としてはやや左に寄り、一見少々バランスが悪い感じがします。でも、横顔の輪郭から垂直に視線を落とすと椅子の前足のラインにピタッと重なることや、背景の壁とそこに並ぶ絵によって分割された色面、全体に遠近感を押さえ平面的な印象をあたえる画面構成からは、人物画でありながら、静物画によく見られる幾何学的な配置の妙を感じさせる面白さがあります。あらかじめ画面の構図を入念に考えたうえで、人物やその他モチーフを配したと考えられます。直線、曲線の組み合わせ、鮮やかな赤系の色をアクセントとして数か所に置いた、リズミカルな明るい印象を感じさせる作品です。
本作を含め、三橋はこの時期にいくつか同じテーマの作品を制作し、数年後は本格的に抽象画の制作を始めますが、57歳の頃に再び具象画の制作へと転じます。その題材のほとんどは、冒頭に記したスペインの風景でした。
タイトルにある画室とは、兄弟治とやはり夫と同じ道を歩んだ夫人、三橋英子ふたりが画業に取り組んだアトリエのことです。ここは、制作の場であったと同時に、地元で同じ絵を描く仲間たちが集う場でもありました。芸術談義に花を咲かせることもあれば、お酒の酔いにまかせた他愛のない会話で盛り上がることもあったでしょう。残念ながらもうこの画室は無くなってしまいましたが、その画家仲間であった木下公男、鈴木至夫、岡本喜久司、牧野邦夫らとの交流により、1948(昭和23)年、茅ヶ崎美術クラブが結成され、兄弟治はリーダーとして会を牽引していきました。後に茅ヶ崎美術家協会と名を改めましたが、現在でも会には当時の彼らの信念が息づいています。

 

 


 (美術館 S.T)



共催展 第32回茅ヶ崎美術家協会展 会期:6月17日(火)~7月12日(日)
※本作品の出展はありません

<略歴 >

高座郡茅ヶ崎町(現・茅ヶ崎市)に生まれる。1930年に神奈川県師範学校を卒業、小学校教師となるが翌年退職、絵の勉強に励む。37年、教職に復帰し画業との両立を図る。50年代から60年代にかけて試行錯誤を重ねた末に、絵の具をそのまま堅い筆で紙面に擦りつける渇筆描法を考案。64年に教職を退いた後は、たびたびスペインを訪れ、多くの風景画を残した。88年、水彩連盟の初代理事長に就任。制作活動に加え、執筆活動にも精力的に取組み、多くの著作を発表している。また茅ヶ崎美術クラブ(現・茅ヶ崎美術家協会)を創立し、本市の美術文化の発展にも力を注いだ。

 

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