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今月の1点 Monthly Pickup 1月

《砂丘と廃船》 三橋兄弟治 ( みつはし・いとじ 1911~1996 )

1972(昭和47)年 水彩・紙/額装 縦58.0/横76.0(cm) 《茅ヶ崎市美術館蔵》

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誰一人いない砂原(砂丘)に、大小二雙の船。天空には半月よりもやや膨らんだ月が描かれています。

作者は「私は夜の月は描かないが、昼月には何となく、夢幻感があって好きなのでよく描いた」と記しています。そして、ある個展に展示した作品に月が間違って描かれていることを手紙で指摘されたことを挙げて「私も出来ることなら、理に叶った月を描いた方がよいと思う。しかし、その時の気持ちで、この作品には丸い月、これには細いシャープな月が描きたいということもあるし、構図の上で形が決定されることもある」とし、作品の中の月の大きさについても「私はずい分大きく描いているはずだが、まだ不自然だと言った人は一人もいない。カメラで月を写したら、私の描く月の五分の一か十分の一くらいではないかと思う」と述べています。

この作品の場合も、現実にこの形の月がこの大きさでこの位置にあったのではなく、描いたときの気持ちや、構図上の必要性により形や大きさ、位置が決められたのだとおもいます。

みたまま、あるがままに描くのも「絵」ですが、自分の心情やその場の雰囲気などを描きこんだり、実景をもとにしつつも構図や形の上での工夫をこらしたりすることも絵画を制作するときの要点でもあります。そして、ここに画家の個性があらわれ、みる者が作品に惹()きつけられる要素がこめられているのだとおもいます。

ちなみに、茅ヶ崎市美術館に収蔵されている三橋兄弟治作品111点のうち、スケッチ類を除いた102点の作品中、月が描かれているものは5点ありました。


この作品は、藤沢市・茅ヶ崎市・寒川町美術展「海・まち・山~描かれた湘南~」に展示されています。


※作者のコメントは、三橋兄弟治著『天才でなかったピカソ』(木耳社/1983)所収の「月と作品」から引用しました。
このエッセイの初出は月刊美術雑誌『ビジョン』(1976年)です。

 

( 美術館 N.Y ) 

<略歴 >

高座郡茅ヶ崎町(現・茅ヶ崎市)に生まれる。1930年に神奈川県師範学校を卒業、小学校教師となるが翌年退職、絵の勉強に励む。37年、教職に復帰し画業との両立を図る。50年代から60年代にかけて試行錯誤を重ねた末に、絵の具をそのまま堅い筆で紙面に擦りつける渇筆描法を考案。64年に教職を退き、その後たびたびスペインを訪れ、多くの風景画を残した。88年、水彩連盟の初代理事長に就任。制作活動に加え、著書の発行など執筆活動にも精力的に取組む。また茅ヶ崎美術クラブ(現・茅ヶ崎美術家協会)の創立者として、本市の美術文化発展にも力を注いだ。

共催展「藤沢市・茅ヶ崎市・寒川町美術展 海・まち・やま ~描かれた湘南~」 会期:2013年12月8日(日)~2014年2月2日(日)

 

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