|  コラムNo3 |

つながりを探してみよう

「クリックで奏でるオルゴール」はいかがでしたか?今回はこの作品をきっかけに「つながり」を見つけてみようと思います。

オルゴールの画面をクリックすると、「かたち」が表示され、その「かたち」の並びがメロディーになって聞こえてきます。眺めていると「音をみる」「かたちを聞く」ように「音とかたちのつながり」を感じられるのではないでしょうか。
作者の久世さんが、参考になったWEBサイトとして紹介しているオスカー・フィッシンガーは、1900年にドイツで生まれたとっても有名なアーティストです。「かたち」と「音」をつなげた表現で知られ、視覚と聴覚がつながって一体となるような作品をたくさん制作し、現代でも多くのアーティストが影響を受けています。

次に、「感覚のつながり」に注目してみましょう。私たちのからだには、目や耳だけでなく、鼻や舌、皮膚といった外部からの刺激を受け取る器官がそなわり、光や音、におい、味、触感、バランスといったものを感じることができます。このような、さまざまな感覚に働きかけることができる装置をコンピュータにつなげてみたら、どんな表現ができるでしょうか。光や音、においなどを検知することができるセンサーを使うと、コンピュータに感覚の情報を伝えることができます。また、光や音、においなどを発生させる装置をコンピュータにつなげてみたらどうなるでしょう。このようにすると、たとえば「音楽」は、耳で聴くだけでなく、触れたり、かいだり、味わったりもできるものになるかもしれません。また、もし耳で音を聴くことができなくても、ほかの感覚を使って「音楽を感じる」ことができたら素敵ですね。(久世さんは2016年に茅ヶ崎市美術館で、音を光に変えたり、振動で感じたりする作品の展示をされています。くわしくはこちら→「じぶんのまわり-耳でながめて 目でかいで 鼻でふれて 手できいて-」展)

人間が、からだで直接感じられる情報の量はあまり多くありませんが、コンピュータを使えば、超音波などの人間の耳には聞こえない音や、赤外線などの目には見えない光を扱うこともできます。超音波は、医学用や工場などで使う産業用の検査機器など、また身近なところではメガネなどの洗浄用の機器に使われています。赤外線のセンサーがついたカメラを使うと、とても暗いところでも映像を撮影することができます。
こういうものを使うことで、人間と世界との新しいつながりが作られていくのですね。

そしてもう一つ、「シェア」というつながりです。この作品では、「シェア」のボタンを押すと、自分が作曲したオルゴールの画面を見ることができるWebサイトのリンクを、他の人に送ることができます。他の人と情報を共有する「シェア」という機能は、FacebookやTwitterといったソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を使っている人はよくご存じだと思います。この「シェア」は、共有する、分け合うといった意味がある言葉です。今回のように、ネット上で鑑賞できる作品は、WebサイトのURL(アドレス)を知っていれば誰でも見ることができ、さらに、見た人がそれぞれシェアすることで、たいへん多くの人たちに情報が伝わります。これも、インターネットが登場するまでには存在していなかった、人と人との新しいつながりなのです。ただ、ニュースなどでも繰り返し伝えられているように、シェアした情報は、自分の手を離れたら制御することができなくなります。あなたがシェアした情報を受け取った人が、あなたが知らない人にシェアすることもあるので、情報の内容には注意が必要です。

3回にわたって、紹介されている作品をもとに、観察する・試す・つながる(拡張)という視点から感じたことを書いてみました。ネット上には、Webサイト、動画やゲームなど、人生の時間をすべて使っても見終わらないくらいの、ありとあらゆるコンテンツが溢れています。仕組みを考えたり、実際に作ってみたりして、作者の側に立ってみると、見える・感じるものがすっかり変わることがあります。私も学校でそんな経験をして、そのことが私の世界を大きく開いてくれました。ぜひ、子どもたちと一緒に、これらの作品を楽しみ、考え、手と頭を動かしてみてください。そして、あたらしい世界を旅する手がかりをつかんでいただきたいです。

小林桂子(日本工業大学 先進工学部情報メディア工学科 准教授)

比較的新しい芸術表現であるメディアアートを通じ、技術と社会との関係について研究している。展覧会の企画制作や、メディアテクノロジーを理解し体験できるワークショップを、展示や教育、医療の現場等で実施してきた。NPO法人理事、文化庁芸研究補佐員、日本芸術文化振興会基金部プログラムオフィサーを経て、2020年度より日本工業大学先進工学部情報メディア工学科准教授。

教育現場や保護者の皆様へ

昨今、教育現場においてプログラミング的思考を学ぶ授業が推奨されています※1。そこで、今回はコンピュータを使った新たな表現とその楽しみ方や身につけ方について、本事業のアドバイザーである日本工業大学准教授の小林桂子さんに3回にわたるコラムを執筆していただきました。ぜひ、あわせてご覧ください。

※1 プログラミング教育に関連する資料(文部科学省ホームページより)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1375607.htm