イベントレポート
2018年5月21日
マルパ・ワークショップ 茅ヶ崎市美術館「美術館までつづく道」レポート(その1) -プロジェクトのはじまり-

報告者:藤川悠(茅ヶ崎市美術館 学芸員)

梅の花と美術館(撮影:茅ヶ崎市美術館)

突然ですが、皆さんは普段、どこかに行くとき
何を頼りにして目的地まで向かいますか?

いまはスマホやパソコンのマップ機能を使う方が多いでしょうか?
従来通り地図で調べたり、現地での案内看板を頼りにされたりする方もいると思います。

でも、頼りにしていた情報が古いものであったり、今の道と情報が違っていたり曲がる道を一本間違えてしまったりして、道に迷ったとき、皆さんはどうされますか?

そんなことを考えたのは、2017年7月に実施されたマルパ・フォーラム「みんなでまなびほぐす美術館」(*1)

第2部のワールド・カフェ形式(*2)の話し合いの場で、弱視である鎌倉丘星さんが発した言葉からでした。

マルパ・フォーラムのチラシ
マルパ・フォーラムの様子 (撮影:(公財)かながわ国際交流財団)

マルパ・フォーラム「みんなでまなびほぐす美術館」について

今回のきっかけとなった通称マルパ(MULPA)は、正式名称は「Museum UnLearning Program for All/みんなで“まなびほぐす”美術館―社会を包む教育普及事業―」といいます。神奈川県内の4つの公立美術館である神奈川県立近代美術館、茅ヶ崎市美術館、横須賀美術館、平塚市美術館と芸術祭連携団体(相模湾・三浦半島アートリンク)の関係者が実行委員となり、(公財)かながわ国際交流財団の呼びかけによって平成28年度に立ち上げたプラットフォーム型のアートプロジェクトです。
目的としては、美術館の外にある多様な人々・団体とつながりながら、定住外国人や障がいのある方々の美術館へのアクセシビリティーを高めることが意識されています。

そして、このフォーラムには、美術関係者、大学関係者、NPO関係者や鎌倉さんを含む視覚障がい者、聴覚障がい者、車椅子ユーザーなど様々な方々が集まり、「みんなで楽しめるアートプログラム・美術館とは?」というテーマで話し合いをしました。

この話し合いの中で「最近、ハッとしたことは?」というテーマに対し、「茅ヶ崎市美術館までの道が、迷路のようで楽しかったんです!」と弱視であられる鎌倉さんが放ったこの一言が今回のプロジェクトのきっかけとなりました。

美術館までの道が迷路のようとは?

茅ヶ崎に来たことがある方なら、ピンとくると思いますが、茅ヶ崎は住宅地に一歩入ると、道は真っすぐではなく、入り組み、狭い道が多いのが特徴です。
鎌倉さんが迷路のようだと言ったのは、このような道を歩かれたからです。
茅ヶ崎駅からカーブを描く細めの道を進み、更に緑地の中にある坂道をあがり、松林の中で表通りから隠れるようにひっそりと建っているのが当館「茅ヶ崎市美術館」です。

茅ヶ崎駅~道~美術館 (撮影:香川賢志)

いつもは「分かりにくい」「迷ってしまうね」と言われてしまうこの道のり。
今回、鎌倉さんが感じてくれたように迷路みたいに楽しむことはできないだろうか?
「分からないこと」「迷うこと」を、他のみんなにも楽しんでもらえるようなことができないだろうか?と思い始めました。

その後、色々な方と話し合い、鎌倉さんが企業や大学等の教育機関に向けて普段実践されている障がい者・高齢者・外国人など多様な人々をデザインの最初から巻き込むデザイン手法である「インクルーシブデザイン」(*3)を活用し、全5回にわたって茅ヶ崎市美術館とその周辺を舞台としたフィールドワークを行ってみようという話しになりました。

チームによるフィールドワーク

美術館として、このプロジェクトを「美術の表現」として提示することを軸に据え、インクルーシブデザインアドバイザーとして鎌倉丘星さん(株式会社インクルーシブデザイン・ソリューションズ取締役)、テクニカルサポーターとして久世祥三さん(エンジニア/アーティスト兼湘南工科大学教員)、アートディレクターとして坂本茉里子さん(デザイナ/アーティスト)にお声がけし「美術館までつづく道」コアメンバーとしてチームでプロジェクトを進めることにしました。

全5回にわたるフィールドワークでは、各回には異なる分野で表現活動をしているアーティストと、道の気付きの提供をしてくれる障がい者、海外にルーツがある方、ベビーカーユーザー、車椅子ユーザーなど多様な方々を「感覚特性者(*4)」として招くことに決めました。

打合せの様子 (撮影:茅ヶ崎市美術館)

そして、フィールドワークをどのように進めるかコアメンバーで相談し、アイデア出し、組立てていくとともに、美術館内外との調整をし、招くアーティストや感覚特性者の方々との交渉を進め、2018年2月25日に「美術館までつづく道」第1回目を迎えることとなりました。

(次号へつづく)

*1 マルパ(MULPA:Museum UnLearning Program for All/みんなで“まなびほぐす”美術館―社会を包む教育普及事業―)
神奈川県立近代美術館、茅ヶ崎市美術館、横須賀美術館、平塚市美術館、芸術祭連携団体(相模湾・三浦半島アートリンク)等の関係者が実行委員となり、(公財)かながわ国際交流財団の呼びかけによって平成28年度より立ち上げたプラットフォーム型のアートプロジェクト。美術館の外にある多様な人々・団体とつながりながら、定住外国人や障がいのある方々の美術館へのアクセシビリティーを高めることが意識されているプロジェクト。
参照:http://www.kifjp.org/mulpa/ (マルパ特設サイト)


*2 ワールド・カフェ
4~5名が1つのテーブルに集まり、いくつかのテーブルを行き来しながら、正解を求めずオープンエンドに会話し、互いの思いや意見を共有し、気付きやアイデアを出していく話し合いの手法。
参照:http://world-cafe.net/about (WORLD CAFÉ.NET)


*3 インクルーシブデザイン
高齢者、障がい者、外国人など、従来、デザインプロセスから除外されてきた多様な人々を、デザインプロセスの最初から巻き込むデザイン手法。
参照:http://i-d-sol.com/inclusivedesign ((株)インクルーシブデザイン・ソリューションズ)


*4 感覚特性者
主に障がい者の感覚に焦点をあてて、その人の特性として呼ぶ言葉。メディアアーティストの金箱淳一さんが普段使用されている言葉を今回のプロジェクトでは使うことに決めました。

〈企画〉茅ヶ崎市美術館
〈主催〉公益財団法人茅ヶ崎市文化・スポーツ振興財団/公益財団法人かながわ国際交流財団
〈協力〉湘南工科大学総合デザイン学科/(株)インクルーシブデザイン・ソリューションズ
〈関連事業〉MULPA(マルパ):Museum UnLearning Program for All/みんなで“まなびほぐす”美術館―社会を包む教育普及事業―