美術館について

ごあいさつ


四月の浜辺から

「四月はもっとも残酷な月」とは20世紀文学史の記念碑的作品、T.S.エリオットの長編詩『荒地』の「死者の埋葬」冒頭にある一節です。植物の芽吹きの時期、冷たい雨にぬかるんだ土地のイメージは第一次大戦後の欧州の悲惨な状況に重ねられます。
私達にとって4月は言うまでもなく生命の蘇り、とりわけ桜の開花とともに思い出すめでたい季節でエリオットの詩とずいぶんちがっていたはずです。
今日、2020年の4月1日は春とはいえその詩の風景を彷彿させる小雨の肌寒い朝となりました。暖冬のせいで花芽の成長が早かった桜はもう満開を過ぎましたがこれはこれでいつもの風景。
しかし、今日現在、世界的に猛威をふるう感染症予防のために当館で閉館が続いていることをまずお詫び申し上げなければなりません。
この災いで世界がひとつになってしまったことは思いもよらぬことでしたが、実態として、個人と個人が切り離されて、不信の広がりがみられます。その分断、壊れかけた世界の修復に芸術作品の制作と鑑賞の場である美術館の務めがあるとわたしたちは考えます。いずれ、世界が病から回復した時、新しい風景があらわれることに期待したいと思います。

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茅ヶ崎市美術館は海岸にほど近い場所に在りますが、今年度は年間をとおして浜辺がひとつの主題となります。海の向こうを眺める立ち位置は近代の歴史が見える場所でもあります。それまで寒村であった当地は明治期に保養地として開かれ、温暖な気候を求めて文士、画家、俳優たちが次々に別荘を設けましたが、当時東洋一とうたわれた結核療養所、南湖院が在ったことも感染症が問題となる今日、あらためて思い出されます。

今年度の企画展としてまず國領經郎の回顧展を予定しています(開催時期については追ってお知らせいたします)。国領は茅ヶ崎海岸などで取材し、砂丘をテーマに現代風景画に新たな解釈をもたらした画家でした。のどかな浜辺も見方を変えれば荒涼とした境界で、ここで展開する人と風景の不思議な物語が見どころとなります。
茅ヶ崎市は海を共有する縁でハワイ・ホノルル市と姉妹都市の関係にありますがその5周年を記念し今秋、ヴィンテージ・アロハシャツ展の開催を予定しています。ハワイの文化の重要な一部であるアロハシャツですが日系移民の労働着がその歴史の発端にあったとも言われています。
冬季の企画展では神奈川県内で活動する画家、桑久保徹の作品をご紹介します。近代美術史の名だたる画家たちを順番にとりあげた大型の「カレンダーシリーズ」では桑久保がここ数年、精力を傾けた長大な物語のようで緻密な世界をご覧いただきます。
この他所蔵作品展また教育普及事業も再開後に開催していく所存ですが衛生環境を整え、安全対策を講じ、ご来館いただけるよう努力いたします。引き続き皆さまのご理解、ご協力をよろしくお願い申し上げます。

 

2020年4月
茅ヶ崎市美術館 館長 小川稔


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